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2001・4・27号
バンコク ホテルファーストハウス物語

今まで数え切れないくらい いろんな国のいろんなホテルに泊まってきた。
高級ホテルから安ホテル、××ホテルまで。
最近バンコクでよく泊まるのは ここに紹介するファーストハウスである。
しかしこのホテルお勧めのホテルでは決してない。
エレベーターはしょっちゅう故障するし、 中に閉じ込められた事もある。
9階とか10階に泊まっていて
下に降りようと思って待っていると
のろのろ8階くらいまで上がってきて
そこからいきなり下に下がってしまい 地団駄踏んだ事も何回かある。

部屋のドアには金の文字で
なんだかマジナイみたいな 呪文だか絵だかが書かれていておどろおどろしいし 、
鏡の前でひげそったりしていると すーっと白い服を着た女の人が横切る。
ぎやー!と思って振り返ると ユキちゃんだったりして、怒られた事もあった。
部屋は古臭くて冷蔵庫・テレビ・バスタブなど
まぁ最低限の設備はあるが 窓側にバスルームがあるため、
部屋にはちいさな窓しかなく薄暗い。
その分バスルームはやたらに明るいが、
熱帯のバンコクでは日当たりが良すぎると 暑くて耐えられない。
まぁ薄暗いのは仕方がないのか。

いきなり行って泊めてくれ、と言うと
一泊1100バーツ(約¥3000)も取られるが
10メートルも離れていない近所の旅行代理店から申し込むと
一泊750バーツ(約¥2000)になる。
タイのホテルはなぜかみなこの代理店ディスカウントシステムで
自分で予約するとばかを見る事が多いので、
これからタイに旅行しようと思ってる方は
ホテルの予約だけは、旅行代理店を通じて予約する事をお勧めする。
行く度にいちいち代理店に行って
電話かけてもらって申し込むのも面倒なので
何とかしてくれ、とフロントに言ったら ホテルのメンバーになれ、
と言うので メンバーになったらクレジットカードのような
立派なメンバーズカードを発行してくれた。

オリエンタルホテルとかシェラトンだとかだったら 持ってても自慢になるけれど、
ファーストハウスなんて誰が知るか。
それでもぼくのパスポートケースのなかには
タイ航空のマイレージカードとともに大事に収められている。

ここに泊まるお客さんも欧米人は少なくアジア系が多い。
余談になるが、タイでは欧米人のことを「ファラン」と言う。
日本で言う「外人」と同じ意味でわかりやすい。
日本でも「ガイジン」と言われればやはり欧米人を想像するものね。
朝食バイキングつきなので、朝、1階のレストランに降りていくと
だいたいどういう人たちが泊っているのかがわかる。
まあぼくと同じような 金持ちでもなく、さえない商売人然とした人が多い。
その分ビーチサンダルとTシャツ・短パンで レストランに行っても差し支えない気楽さがある。
ファーストハウスは 時代の最先端モードとは程遠いが
タイのアパレル産業のメッカ、プラトナーム市場の真ん中にあって
フィリピンやタイの地方から 服を仕入れに来る人たちも多く泊っている。

アフリカから服を買い付けに来る黒人も多く、
ゾマホンが着ているようなド派手な配色の服屋もある。
周りにはアフリカン専用ホテルも何軒かあって
夜になると黒人たちは道端に座ってたむろしていて
バンコクにいながらニューヨークのハーレムの雰囲気を味わえる。
ここはひとつゴスペルなんかもうたってほしいものだ。

ぼくもここに泊る理由は 圧倒的にどこに行くにも便利がいいからだ。
伊勢丹デパートまで歩いて15分ほどだし、
日本語の出来るインターネット屋も近所にある。
荷物を送ってくれるカーゴ屋もたくさんあって、
バンコクの秋葉原「パンティッププラザ」も歩いて5分だ。

ファーストハウスに行くと いつも必ず会うインド人がいる。
いや彼がインド人かどうか不明だ。
彼はいつもライオンの頭が彫られている金メダルのついた
太い重そうな金のネックレスと喜平の重そうな金ブレス、
太いダイヤの金リングでピカピカに固めていて
1階のレストランやロビーうろうろしている。
なにやってんだか、いつもインド系の人間と 深刻そうな顔して話し込んでいる。
その姿はどうみても悪だくみにしか見えない。

今回も4月20日から23日まで 4日間ファーストハウスに滞在した。
朝6時頃空港からタクシーで到着すると なんだかホテルの周りがざわついている。
道路は一面水浸しだ。
水道管でも破裂したのかな、と思ったら あたり一面こげ臭く、
なんとホテルから幅5メートルくらいの道を隔てた
前の6階建てゲストハウス兼洋服屋の入口が 真っ黒に燃え落ちている。
その一角はアーケードでつながっていて
良くもまあ延焼しなかったもんだ、と感心した。
9階の部屋にチェックインすると、 まだ煙くさく、
窓から、 向かいのビルからまだ青い煙が立ち昇っているのが見えた。
ホンマに鎮火したんかいな、と不安でもあったが
眠気の方が先に立ち、そのまま眠ってしまった。

昼前に目覚めて、仕入れに出発、と思って部屋を出て、
例のノロノロエレベーターを待っていると
誰かが英語で大きな声で喋りながらやって来た。
なんだか、火事のことを喋っているらしい。
その声の主はライオン金メダルだった。
「イヤーあの火事で3人死んだんだってなー。 何人かは今も病院にいるそうだ。」
ルームメイドのおばちゃんに喋りかけている。
あんまり関わり合いになるのイヤだなぁ。 と思ってそっぽ向いていたが、
金メダルも下に降りるらしく
、ぼくの横に立ち おしゃべりの矛先がこっちに向かってきた。
「あんたも、昨日泊まっていたのか?」
「いや、今日ついたばかりだけど・・。」
「凄かったぜ、昨日の火事は!何しろここのお客、
みんな荷物もって避難したんだからな。 煙もうもうでな、大パニックよ。
しかし、ここのセキュリティはパーフェクトさ。 なーんにも心配いらねえ。」
「ふーん。ところであんたはインドから来たのか?」
「いや、アムステルダムだよ。」
酒くさい息をしながら彼は 「じゃあな」 と言いながらまた廊下の奥へと消えていった。
あんたエレベーターに乗るんと違ごたんかい?
その後何度かライオン金メダルに会ったが もう声をかけてくる事はなかった。
あの時は酒に酔ってテンション高かったのか、
しらふの時はおとなしいライオン金メダルであった。
見るとそんなに邪悪な人間でもなさそうである。
あの時もう少し何をしているのか聞いておけばよかった。