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2001・6・13号

天竺座の旅

15年前のインド・ニューデリー。
ぼくはエスニック雑貨の露天商であった。
まだその頃はアジア雑貨とは言わず、 エスニックと言うのが主流であった。
その頃はまだのんびりしたもんで 仕入れ旅行に6ヶ月かけていた。
そこで1人の日本人と逢った。 彼はケンさんと名乗った。
ケンさんは日本から着いたばかりで 偶然同じ安宿に泊まっていた。
話を聞くとバラナシ(ベナレス)のガンジス河に 友達の遺骨を流しに行くそうだ。
ベナレスはヒンズー教の聖地で ガンジス河で沐浴している写真を見たことがあるだろう。
ガンジス河はヒマラヤの山中で瞑想している シヴァ神の頭頂部から吹き出している河で
河自体が神のご神体でもある。
ヒンズー教徒はこの河に火葬した灰を流すと 輪廻(カルマ)の輪から抜け出し
天界に生まれ変わると信じられている。
だから多くヒンズー教徒は死を待ちに ベナレスに集まってくる。
ベナレスは冥府に一番近い街でもあるのだ。
日本の刑務所で自殺したドイツ人の遺骨を ガンガに流しに行ったケンさんの友達が
日本に戻ったとたんに交通事故で亡くなり
その遺骨を持っての旅だそうだ。
ケンさんはぼくらよりも10歳以上年上で
1960年代のビートニクス、ヒッピーの世代の人たちである。
彼は家を持たずに文字通り世界を放浪していた。
翌日、彼はバラナシに旅立って行き、
その後逢うこともなかったが、
遺骨をガンガに流す話は強烈に頭に焼き付いていた。

アミちゃんとはやはり10年以上前 大阪のフリーマーケットで初めてあった。
彼女は自分で服を作って売っていて、
その後、京都のお寺の能楽堂でファッションショーを行い
何人かの友達がモデルやバンドで参加すると言うので 見に行った事がある。
親しく話しをしたわけではなかったが 共通の友達が何人かいて、
その日は打ち上げでアミちゃんの部屋に泊めてもらった。
部屋の中にでっかい鯉のぼりが飾ってある
京風アバンギャルドなお部屋であったのを覚えている。
その後アミちゃんは長野に行き、
インドに行ったという話しを聞いたが もう逢うことはないだろうと思っていた。

ところが2年前、
伊勢の友達が、ヒッチハイクしている2人連れを載せたら
インドに住んでいて、日本に大道芸で旅して廻っているという。
今は二見ガ浦にキャンプしながら 伊勢の内宮前おはらい町で踊って入る所だった。
「オレの友達にもインドにしょッ中行って、 今は伊勢で店を開いている、こうこうこういう奴がいて・・・。」
と僕のことを話ししたら、
どうも知っていると言うことで アミちゃんから電話がかかってきた。
それが天竺座としての2人とのであいだった。
ケンさんは日本人離れした堀の深い顔と大きな眼
腰近くまで伸びたドレッドロックスで
インドのバンスリと言う子供の腕くらいの太い竹笛を吹く。 低く響く音は魂を揺さぶる。
アミちゃんの踊りは まるで重力から開放されたように軽く、 独楽のようにくるくると回転する。
回転するとそこから まるで花びらがこぼれてくるような そんな軽やかで色彩豊かなダンスだ。

天竺座のライブは 二人が暮らすインド・ベナレスの
生と死やガンガの女神の喜びや悲しみのリズム そんな世界が見えてくる。
去年は伊勢で3ヶ所ライブを行ったのだが
今年は場所の都合で 松阪のプリミーティブアート・モトでの ライブのみとなっている。
そのほか色々な場所でライブをやるので お近くの方はぜひ見に行ってください。