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宮川激流下りの旅 *part2*

エビでの 川下りから7ー8年すぎた。
オレは結婚して相方のユキちゃんと暮らしていた。
子供はまだいなかった。
が、川下りの情熱はまだくすぶりつづけていた。

ある暑い夏の日、オレは言った。
「ユキちゃん川下りしよう。」 「えー、メンどくさいからいや。」 彼女は即断った。
ユキちゃんは俺のアウトドアマインドに全然理解を示さない
昼寝とアイスクリームが生きがいのものぐさな女であるが、
無理やり山とか連れて行くと 「疲れた」だの「しんどい」だの,文句散々言いながら歩くくせに
頂上とかに着くと「あーめちゃめちゃ気持ちいいわー。」と 一番楽しんでたりする。

「気持ちいいよー。川をゆったり下って、途中の河原で昼寝して・・・。」
「えー。ほんじゃ行こかな。」
「よし決まった。」
川くだりの最大の問題は下り終えてから 家までどうやって帰るかである。
前回は運良く友達に救助してもらったが、
着替えもタオルも携帯電話もずぶぬれになるから持っていけないし
唯一小銭は大丈夫であるが 川のほとりに電話ボックスがあるところは非常に少ない。
バスに乗ろうにもヒッチハイクにしろずぶぬれなので無理だ。
一番いいのは車2台で行って上流と下流に駐車して
下ったところで上流に戻って回収するのが一番の方法だ。 と考えた。
だからユキちゃんを誘った。

前回のエビはボロボロになったから 新しい浮き具を探しにホームセンターに行った。
エビはもう廃盤になったらしく売っていなかった。
そこで今度は金持ちのプールに浮かぶような
銀色のゴージャスな空気いす(3980円)と
子ども用のゴムボート(2980円)オール付きを買った。
救命胴衣も980円だったので2個購入。
ゴージャスな椅子とボートに寝転んで ゆったりと清流を下る予定だった。
ところどころでセミの声を聞きながらお昼寝とかして・・・。

翌日朝10時。天気晴れ。摂氏30度。
パンとトマトとキュウリのお昼ご飯をビニール袋に入れて
僕たちは予定どうり車2台で出かけた。
1台はゴール予定地点の度会町の宮リバー公園に止め、
もう1台はそこからさらに車で30分くらいさかのぼった上流に止めた。
最初はもっと近い距離にするつもりだったが どうせ行くなら乗れるだけのろう、
とユキちゃんには相談せず 勝手に決めて大宮町のあたりで車を停めた。
ほんの5−6kmの距離だと思ってたら あとで測ったら16kmもあった。

これがそもそもの間違いであった。
さて発泡スチロールにオレンジの布を貼り付けただけの 安物救命胴衣をつけ
日よけにでっかい麦藁帽子をかぶり
ゴージャス椅子と子ども用ゴムボートに空気を入れていざ出発!
と思ったが よくよくわが身を見てみるとなんだか情けない姿。
カヌーとかにワインとサンドイッチと ゴールデンレトリバー犬とかを乗せて行く、
雑誌に乗ってるような川下りとはえらい違いである。
B級アウトドア。 なんとなく貧乏くさい川下りである。
どうもキャンプに行ってもバーべキューじゃなくて うどんを作ってしまう庶民派の我々である。
親しみ安さが売りである。

さて漕ぎ出したのはいいが流れが予想以上に遅いぞ。
というか全く流れがない。
母なる宮川はゆったりゆったり流れる。
森や樹や山がゆっくり流れ 足はひんやりと川の水に洗われて カワセミやサギが飛び 魚が跳ねる。
まさに自然との一体感。 この上なく快適だ。
川遊びの子供達が上流から流れてきたオレ達を見て
そのまま下流に流れていくのを驚いたように固まって見ている。
「ホーホーホー。キミ達にはこーんな真似はできないでしょう!」
この上なく快感な優越感にひたれるひと時である。
そんな風にして 最初のうちはのんびり流れに任せて漂っていたのだけれど
2ー3時間過ぎても 距離的にはほとんど進んでいないことが明らかになってきた。
これはこのままではゴールにたどり着けないのではないか?
オレ達はちょっとあせりだした。 ここから先、自然はオレ達に野生の牙をむき出した。
地獄の体験はこれからだった。